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ベン・ホーガンと林由郎


モダンゴルフ

「モダンゴルフ」は、ベンホーガンが1957年に出版したレッスン書で、ゴルフのバイブルとしてよく知られている。原題は、「Ben Hogan's Five Lessons: The Modern Fundamentals of Golf」。快適なフェードを打つためのメカニズムを解説したもので、グリップやアドレスの解説が大半を占める。道具が進歩した現代では時代遅れの感じもするが、今でも多くの信奉者がいるらしい。

一方、日本のゴルフ指導といえば、ひと頃は、林由郎を中心とした我孫子一派が席巻した。その林由郎の著書が、「ゴルフは理屈よりコツだ:林由郎の即直レッスン」。「モダンゴルフ」を否定しているようにも聞こえる。バブル期のゴルフブームの頃は、ゴルフのレッスン番組がよく放映されていた。林由郎もレッスンプロの一人として登場し、曲芸みたいな打ち方を披露していた。あれで上手く打てても、かっこ悪くてまねできないと思ったものだ。

尾崎と青木

その我孫子一派から二人の逸材が出た。尾崎と青木である。

尾崎は欧米流の近代ゴルフを取り入れて世界に挑んだが、跳ね返された。一方の青木は我孫子流のまま世界に挑み、一時代を築いた。そう考えると、林由郎もあなどれない。もっとも最近は、青木みたいな選手は見かけないから、我孫子流はもう絶滅したのかもしれない。

ゴルフの練習をしていて、何故か、とても上手くいく時がある。その状況を「開眼した」と表現するが、大抵は錯覚である。
昔、川崎のゴルフ練習場で、何故か、とても上手くダウンブローに打てる日があった。直線的に飛び出した球が落ちる前にフッと吹き上がるのである。ショートアイアンでもスプーンでも同じような弾道を描いた。「開眼した」と思った。それを確認するために、翌週の練習が待ちきれなかった。しかし、あの日の弾道が蘇ることは二度となかった。

御多分に洩れず、自分も「モダンゴルフ」を買った。印象に残っているのは、後書きのところである。ベンホーガンはそこに、明日の練習が楽しみで夜も寝られないと書いている。状況は同じだが、結果はもちろん異なる。近代ゴルフとは、豊富な練習によって、同じスイングがいつでも出来るようになることを目的にしている。月一ゴルファーにはどだい無理な要求なのである。案外、我孫子流のほうが実情にあっていたのかもしれない。早く気づけば良かった。今はそう思う。


記:2019年12月