
タイガーウッズの数あるミラクルショットの中で最も有名なものが、2005年のマスターズ16番ホールのチップインだ。グリーンの左奥ラフから打ったボールは、大きく弧を描きながら傾斜に乗ってカップに向い、カップの手前で一旦止まり、再び動き出して、カップの中に吸い込まれた。この時は仕事で名古屋にいて、早朝のビジネスホテルのベッドの中からこの様子を見ていた。ボールがカップインした瞬間、早朝にもかかわらず、思わず大声をあげてしまった。アマチュアには計り知れない神の領域である。
長いゴルフ人生の中で一度だけ、自分のゴルフの中にも神の存在を感じた瞬間があった。同じ16番でも、こちらはロぺ倶楽部である。距離のあるミドルで、グリーンは巨大なバンカーに囲まれている。ティーショットは右ラフ、グリーンまでは180ヤード以上あり、しかも、木の枝が邪魔をしていた。グリーンを直接狙えば枝に当たる可能性があったが、ほとんどキレ気味にクラブを振りぬいた。クラブはツアーエディションの3番アイアン、ボールはサーリンカバーの糸巻きボールだった。
その時のショットは、いままで味わったことのない不思議な感覚だった。素振りでもしているかのように、およそ打感というものがなく、後ろに引っ張られるようにクラブヘッドがしなり、ボールが餅のように潰れていくのを感じた。芯を食うとは、こういう感覚なのだろう。ボールの行方は見失ったが、グリーンに向かって歩いていくと、ピンそば2mのところに落ちていた。どんな弾道を描いていったのかは分からないが、紛れもないスーパーショットだった。神が降臨した瞬間である。
それなのに、2mのパットを外して、美しい思い出を台無しにしてしまった。
記:2019年12月