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ちゃんぽんの味


ピヨピヨラーメン

世界初のインスタントラーメンは日清食品のチキンラーメンだが、我が家の生活史におけるインスタントラーメンは少し違う。我が家の最初のインスタントラーメンは明星ラーメンなのである。「明星即席ラーメン、パパと一緒に食べたいな」のCMソングは今でもよく覚えている。ニワトリの絵が描かれた袋で、青い帯の入ったものが味付け麺で、赤い帯の入ったものはスープが別になっていて少し高かった。ほどなく、サンヨー食品からピヨピヨラーメンが発売された。チキンラーメンの影響で、この頃はすべてニワトリのイメージだった。そのイメージを最初に打ち破ったのがエースコックのワンタンメンで、しかも塩味だった。サンヨーがサッポロ一番で大ブレークすると本格志向になり、明星がチャルメラで攻勢をかけ、日清が出前一丁で対抗した。そのあと、カップヌードルが出て、我が家のインスタントラーメンの歴史は終わる。インスタントラーメンを食べなくなったということではなく、インスタントラーメンにワクワクした時代はカップヌードルが出るまでだった。

来来来のちゃんぽん

カップヌードルと同じ時期に家系ラーメンが誕生した。通っていた高校の前に「どさんこ」が開店し、初めて味噌ラーメンを食べたのもこの頃だ。インスタントから本物への回帰が始まった。平成になるとご当地ラーメンがブームになり、日本のラーメンは劇的進化を遂げた。もはやインスタントでは表現できないほど複雑になり、海外にも進出し、世界の味になった。そんなラーメンが好きで、家系ラーメンもご当地ラーメンも割とよく食べてきたほうだ。しかし、いくら食べても超えられない昭和の味がある。

40年前、通勤で一時間ぐらいかけて戸塚に通っていた時代があった。辛くて、時々、横浜山手駅の近くに下宿していた弟のアパートに泊まったりしていた。その山手駅のガード下に「抜天」というラーメン屋があった。いつ行っても混んでいる繁盛店で、ちゃんぽんが人気だった。黄土色のドロっとしたスープで、最初はとっつきにくかったが、食べるほどに夢中になった。戸塚の勤務が終わると行く機会がなくなったが、数年後、久しぶりに行ってみたら、店がなくなっていた。近くに移転したのかと思い、周辺を歩き回ってみたが、見つからなかった。風の便りに閉店したことを知ったとき、もっと食べておけばよかったと随分後悔したものである。

後日、九州の中州で海鮮ちゃんぽんを食べたとき、「抜天」のちゃんぽんと同じ味がして、びっくりしたことがあった。「抜天」よりはあっさりしていたが、舌があの味を覚えていたのである。ちゃんぽん番長の名で知られる林田さんによると、東京の個人店では三軒茶屋の「來來來」がおすすめだという。行ってみようかとも思ったが、食べログの口コミには「スープは粘度がなく、さらっとしている」と書かれている。どんなに美味しくても、これは「抜天」の味ではない。再びあの味に巡り合える日は来るのだろうか。


記:2020年03月