
初めて競馬場に行った日のことは、今でも鮮明に覚えている。それは、1976年(昭和51年)6月20日の中山競馬場、カブラヤオーの復帰第二戦の日だった。初めて目の当たりにした競馬は、馬の大きさに驚き、顔が映るぐらいピカピカした毛艶に驚き、テレビで見るほどスピード感のないことに驚いた。
カブラヤオーは前年の皐月賞、ダービーの2冠馬である。デビュー戦は追い込んでの2着、そのあとは強引な逃げで連戦連勝、日本ダービーの暴走はいまでも語り草になっている。前半1000mを58秒6という短距離なみのハイラップで逃げ、ゴール前ではさすがに力尽きたとおもいきや、そこから粘り腰で踏ん張り、ジグザグに走って勝ってしまった。呆れるばかりの強さから三冠は確実と言われたが、脚部不安で戦線離脱してしまった。
復帰したのは翌年の5月22日のオープン戦、1700mのダートだった。この年の春のクラシックには超ド級のスーパーホースが誕生していた。トウショウボーイである。日本ダービーを直前に控え、トウショウボーイが話題を独占する中での、あまりにも地味すぎる復帰戦だった。しかも、半馬身差の辛勝だった。
トウショウボーイがダービーに負け、そのショックから立ち直れない中で、カブラヤオーの復帰第二戦が行われた。芝1800mのオープン戦だった。前走は復帰初戦だから辛勝はしかたがない、二戦目は調子も上向いているだろうし、相手も弱いから、去年のように豪快に逃げ切ってくれるだろうと誰もが信じていた。
カブラヤオーの単勝馬券を握りしめ、ゴールの先の柵のところに陣取った。ところが、スタートのときゲート内で立ち上がり、大きく出遅れてしまった。頭をぶつけて脳震盪をおこしていたらしい。大きく離されたまま、後方を淡々と走り、淡々とゴールした。11着、大差のシンガリ負けだった。その結果はとても受け入れ難かった。あのとき場内から、ため息は聞こえたが罵倒する声は聞こえなかった。スターホースが負けたというのに妙にサバサバしていたのが不思議でならなかった。
記:2020年06月