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魔法の薬


トヨペットクラウン

人に誇れるような健康体でもないのに、入院するほどの大病を患った経験がない。何十年も続けている入院給付金付きの医療保険は一度もお世話になったことがないのに、健康体でないからずるずる続けることになってしまう。保険会社には絶好のカモかもしれない。

病院に入院した経験がないわけではない。中学1年の時、脇見運転のトヨペットクラウンに、乗っていた自転車の後輪をひっかけられた。その衝撃で転倒し、膝を骨折した。その時は擦り傷ぐらいに思っていたが、一夜明けたら真っ赤に膨れ上がり、地面に足をつけただけで痛みが走った。結局、腫れが引いてギプスが装着できるようになるまで入院することになった。10日間ぐらいだったと思うが、入院したのは後にも先にもこの一回だけだった。ケガの代償として、自転車は新品になり、見舞金で自動巻腕時計「セイコースポーツマチック・ファイブ」を買った。ささやかな戦利品だった。

ガスター10

大病と言えるのは、40代前半に患った胃潰瘍だ。日に日に、胸やけが酷くなり、ついには食べた物をすぐ吐き出すようになった。牛乳を飲むと、患部に膜ができるのか、少し楽になった。それでも医者には行きたくなかった。胃カメラが嫌だったからである。とうとう我慢できなくなって医者に行った。太い胃カメラの管が挿入され、地獄のような苦しみの中で、「あった、あった、でかいなコレは」と明るくはしゃぐ医者の声が聞こえた。

胃カメラを飲めば、苦しみを瞬時に取り除いてくれる治療が行われると思っていた。しかし、薬が出ただけで、相変わらず辛い日が続いた。5日後、突然、薬が効き始めた。1週間もすると嘘のように改善し、食事も普通に取れるようになった。

処方された薬は市販前のガスター10だと聞かされた。正式名はファモチジン、通称ガスター20。ガスター10は、ガスター20のファモチジンの含有量を10mgに抑えて開発した一般用医薬品(大衆薬)である。以来、ガスター10は常備薬になった。今のところ、胃はいたって健康である。


記:2020年07月